〜13巻パート1〜
以前、アラハビカ編でお届けした「ニケとククリと祭りについての考察」。あれがどれだけ反響あったのかどうか知りませんけど、反対意見もいただいていませんし、あれでよかったのかなーと思います。(でもそれ以前に誰も読んでなかったりして(笑))
調子に乗って、13巻まで飛んでいきたいと思います。
ただ、僕自身、まだ13巻の内容をすべて理解しているとは思えないのですが。ご意見ご感想をお待ちしています。ネタバレ含みますので(っていうかそれが目的ですので)先に自分で13巻を存分に味わいましょう。よろしくお願いします。
ってこう大それたことを書くたびに、自分の解釈にそんなに自信があるのかどうかあいまいになっていくのは前から変わらないのですが。
とりあえず「ニケとククリと祭りについての考察」の方で書いたことが前提となりますので、10巻とかの解釈に疑問がある方は先にそちらをどうぞ。
ニケは
この島では、だれかが…たぶん魔物が時間を止めてるんだ!!
と叫びます。…でも、止まっていますか? 止まっていませんね。その直前に、ニケははっきりと、「この島にきてから1か月だ」と言っています。時の流れが本当に止まったら…当然ですがニケもククリも動けません。明らかに時間は動いているのですよね。動いているのに止まっている…? ここで頭にクエスチョンマークが灯った人もいると思います。『動いたまま止まる時間』とは?
そのあと「星のかざり」なるアイテムを使って、ニケとククリは時間をさかのぼって過去に戻ります。…でも、それってアリでしょうか? 「記憶だけを残したまま過去に戻る」なんて。しかも13巻を最後まで読みすすめると、本当にもとの過去に戻ったわけではないことが分かります。なぜかミウチャだけは、ククリがまったくいなくてもお店を出している…ニケとククリは、微妙に前と違う「過去」をやりなおしているのです。しかもその「過去」は、やり直す前のニケとククリの行動の結果を一部だけ反映しているという。
妙ですね。タイムマシンのパラドックス、などというものを引き合いに出すまでもなく、こんな無茶苦茶が存在するはずがない。『未来の記憶と一部の結果だけ残して戻る時間』とは?
でも、こんなことが許される世界がひとつあります。
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そう、RPGというゲームの中です。
RPGの中では、時間は「動いたまま止まっています」。もちろん、こういう表現は適切ではありませんね。時間の流れが複数存在するのです。「ゲームで遊んでいるプレーヤーから見た時間」と、「ゲームの中のキャラクタ(登場人物として)の時間」のふたつ。『プレーヤー』と『登場人物』、この2つが、この文章のキーワードです。
リアルタイムRPGなんていうのもあるでしょうが、まあごく一般的なテレビゲームの「RPG」というものを想像してみましょう。あなたがドラクエでも買って遊ぶと想像してください。
『プレーヤー』としてのあなたの時間は絶対に止まりません、戻りません。8時間ゲームをプレイしたら、あなたはきっかり8時間の時間を失い、その分歳をとります。絶対に間違いなく必ず究極に事実です。
あぁ、これが嘘だったらと、僕はいくら望んだことでしょうか。重要なテスト前についつい始めてしまったゲームがやめられなくなってしまったときの後悔といったら。光陰矢のごとし。おもろうてやがて後悔。後悔先に立たず。背水の陣。絶体絶命。そして死して屍拾う者なし。それでも時間は戻らないのですよ残念ながら。自業自得(涙)。
話がそれましたが、ゲームの中の『登場人物』の時間の流れはそれとはまったく別物です。『プレーヤー』の8時間が、『登場人物』にとっては、3日だったり、30年だったり、そしてゼロだったりします。
ゼロだった場合、人はそれを「ハマリ」と言います。どれだけ足踏みしても、どれだけ町の中を歩いても、どれだけ宿屋に泊まっても……たったひとつの条件が満たされないばかりに物語が先に進まないというフラグの呪い。どんなに行動しても、そのときゲームの中では時間は経過しないのです。考えてみれば不思議ですが、それがゲームですね。
さて、RPGで登場人物が魔物にやられたらどうなりますか? 「勇者様は勇者だから絶対に死なないんだ!」ですか? まさにそのとおりです。その場ですべてが一巻の終わり、ソフトのROMの中から登場人物の存在が抹消、なんてことはありません。普通はセーブができます。やられてもそこからはやり直せます。親切なゲームなら戦闘をその場でやり直せたりします。最悪一からやり直せます。そう、時間が戻ります。
そのときに残るものがあります。たいていの場合「経験値」やレベルって、セーブポイントまで戻されても、減りませんよね。(なぜかお金はよく半分にされますが)。
セーブポイントに戻されたときに、なぜか前と違う状況からプレイするのです。戻される前、魔物に倒される直前までの成果という、時間的には未来に起こったはずの一部の結果は、過去に戻っても残るのです。セーブポイントまで戻ったからといって、もう一度長い王様の話を聞かなくても次の町への門は開いていた、なんていうことはよくありますし。フラグは一度立てればいいのですから。
タイムパラドックスはどこにもありません。実際、あなたがプレイしているときの事実そのものですから。ゲームオーバーになっても最初からやり直せることを、「未来が複数ある!」などといってパラドックスと主張したら…それは楽しいでしょうけど、少なくとも僕は無視します(笑)
そして、未来の記憶も残ります。次に同じ魔物に挑むときには、ゲームの『登場人物』は同じ失敗を繰り返さないように戦うはず。今はじめて会ったはずの魔物の攻撃パターンを知っているのです。当然『プレイヤー』として見れば過去の記憶ですから、これで問題ないわけですね。
これだけ説明してしまえば、レフ島でのニケとククリの置かれていた立場は明白ではないでしょうか。
ククリ…ここに来てずいぶんたったよなあ
子ネコなのに まったく大きくなってないと思わないか?
レフ島でニケとククリを「はめて」いたもの、それは紛れもなく「RPG」です。悪魔ガルリロを除く、全員がゲームの中の登場人物になってしまったのです。
不思議なのは、ふたりがこのゲームの中の『登場人物』であると同時に、『プレイヤー』でもあるという事実。
あ、「あなたは人生というゲームの中の登場人物でありプレイヤーだ」とか、そんなクサい文句が言いたいのではありませんよ。「人生」というゲームと「RPG」というゲームでは全然違いますからね。ククリは「RPG」の『登場人物』であり『プレイヤー』なのです。
それを象徴するのが「攻略本」というアイテムでしょうか。自分の人生の攻略本。未来のことが載っている本。それに従えばクリア。あぁなんて無茶苦茶で荒唐無稽で意味不明な設定でしょうか。僕は最初、こりゃ何だ、と思いましたよええ正直。こんなの単品として笑いのネタになるのかと感じちゃったんですよ本当は。そんな私をお許しください神様仏様衛藤様。
この「RPG」の世界の中にいる限り、本当に未来が固定されていた…このときのニケとククリの行動は予定済みの観測された行動だった。なぜなら、レフ島のステージそのものが、「ある力」による、「つくりだされたもの」だったから。そう、RPGではストーリーは基本的に固定。最初にスタッフが作った道に従うしかない。イベントをクリアしない限り時間は進まない。だからこそ攻略本が存在しえるわけですが。そう気づいてしまえば、攻略本の存在も重大な意味を帯びてきます。
攻略本は、『プレーヤー』のためのものです…これは当然。書かれているのは『登場人物』の行動です…これも当然。これがまったく同じ場所にいる。この「本人の行動の攻略本を本人が手にする」という荒唐無稽さは、その見かけがいくら奇妙でも、この場ではごく自然な「事実」なのです。
そしてもうひとつの象徴的アイテムが「星のかざり」でしょう。この、いかにもゲームによく出てくる「星」、そう、スターをかたどったアイテムです。某ゲームでは無敵の象徴、別のゲームでは得点の象徴。そしてグルグルの中ではRPGにおける「セーブアイテム」として存在します。あるいは「1UPアイテム」、もしくは「持っているだけで一度だけ復活するアイテム」と言い換えてもいいでしょう。普通のマンガならこんなわけわからないアイテムは、やっぱり「都合のよすぎる物体」で一刀両断でしょうね。だけど実際にゲームでは存在するんですよねこういうアイテム。今はRPGの中。だから許される理不尽。
その後過去に戻ったふたりは、未来の記憶を利用してうまく難を逃れます。そして、やり直したはずのプレイでふたりが立てたフラグはしっかり、過去に戻っても反映されていたことに気づくのです。「ブティック ミウチャ」というお店の存在によって。これもRPGだから許される。SFで語ってはいけません。
ニケたちは『プレーヤー』だからいくら記憶が残っても問題ない。かつ、ニケたちは『登場人物』だから、1か月間まったく時間が経過しなくても(なんちゅう表現だ)問題ない。この部分が、衛藤先生の「タイムトラベル」のトリックです。いわゆる「パラドックス」が発生しないのですよね。ゲームだからプレイするたびに別のことが起きるのは当然。「タイムマシンのパラドックス」は、十分昔から十分未来にかけて、たった1本の因果律ですべてをつなげる必要があるという、通常なら至極一般的な仮定から生じます。しかし今、分岐は、因果律の軸(時間軸・可能性の軸と言い換えてもよいでしょう)は無限にあり、同じ時間にニケとククリが別の事をしたはず、という記憶が、パラドックスにならないのです。
そうはいっても、本当に奇妙な設定ですね。ゲームの中に閉じ込められたなんて。RPGだから許されるといっても、こんな夢のような世界が存在するなんていかにも奇妙です。
……夢?
そう、そんな奇妙な世界にニケとククリを閉じ込めた、「ある力」を持った「主」がいる……
そしてその「ある力」、こんなRPGの世界にククリを閉じ込めた主とは…お分かりでしょうが、これも「ククリ」です。
ゲームの製作者がゲームの登場人物として自分を押しこめ、自分自身がゲームのプレイヤーとして謎を解く。
ガルリロのセリフ。
みんながグルグルの中に…
ククリちゃんの心の箱の中にいたんです
「観測者」はククリちゃんだったんです
言うまでもなく、この箱の中には、レフ島の風景があります。その中にはニケがいます。ククリがいます。153ページの、ククリのいる箱を覗くククリの絵。これを「ククリが作ったククリが登場するRPGで遊ぶククリ」として解釈するのはそれほど無理のあることとはいえないでしょう。
そしてこんな不思議な舞台装置を作り出せるものは…当然「グルグル」ですね。「心の中を呼び出せる魔法」です。
この状況っていうのは、以前書いた通り、「グルグル」という封印の魔法の特殊な形態ですね。
悪魔になったり キライなものを消したり 好きなものを奪ったり
戦うハートはいつも どこかでエネルギーを爆発させようと待ちかまえている
それは誰を攻撃するか自分でもわからない
頼りない大砲なのじゃ
ふたたび12巻の言葉ですが。今度ククリが封印(?)して時間を止めてしまったのは…ギリでもなければ恋人でもなく、島ひとつまるごとでした。
今回ククリがこの封印の魔法陣「恋するハート」の矛先を間違った方向に向けた原因は…「もう一歩が踏み出せないもどかしさ」でしょう。むしろ敵に「恋するハート」を使わなかったので自分に降りかかった、ということかもしれません。この辺は12巻の最後、花の国編のストーリーと密接に繋がっているところです。パート2で詳しく見ていきましょう。
それにしても、誰を攻撃するか分からない封印の魔法、とはいえ、さすがにもう少しなんとかしてほしくもなくはないですが。
……つぎは 自分の魔力くらい
しっかり管理してくださいね
これは13巻のガルリロの言葉です。
[→続き→]
余談です。